全身性疾患

①骨粗鬆症

【症状】骨粗鬆症だけでは、特に自覚症状がありません。しかし、骨折しやすくなる状態ですので、背骨の圧迫骨折では、腰背部痛、背中が丸くなったり、身長が低くなったりするなどの症状が出ます。また転倒して、手首や上腕骨が折れることがあります。脚の付け根の骨折(大腿骨頚部骨折)も起こしやすくなり、転倒により歩行困難になる場合があります。高齢者が寝たきりになる原因の約1割が骨折などによるものと言われています。

【病態】日本では、骨粗鬆症の患者が1,000万人いるとも言われています。高齢になったり、活動性が落ちたり、女性が閉経を迎えたりすると、骨のカルシウムの量が減少して、骨密度が低下して骨粗鬆症になります。人の骨は20歳代で最も丈夫で、その後加齢とともに弱くなっていきます。老化により骨を作る細胞の働きが減り、逆に骨を壊す細胞が働くことにより骨粗鬆症が進行します。女性の場合、女性ホルモンには骨を作る作用がありますので、閉経後女性ホルモンが減り急に骨密度が低下します。また、高齢になりカルシウムの摂取が不足したり、腸管からのカルシウムの吸収が低下したりすることも骨粗鬆症の原因になります。運動不足も骨への刺激が少なくなり、骨の強さを低下させます。骨粗鬆症になるとわずかな外力で骨折を起こします。特に骨折しやすいのは、脊椎、上腕や前腕の骨および大腿骨頚部で、転んで受傷するのが一番多い原因です。

【当院での治療】まず骨粗鬆症の診断と程度を調べるために、当院ではX線を用いた骨密度測定をします。また治療効果の判定のために、血中、尿中の骨吸収マーカーや、骨形成マーカーを検査しながら治療をすすめます。骨粗鬆症の治療は薬物療法が中心です。ビスフォスフォネート製剤やSERMと呼ばれる女性ホルモン製剤を投与することで、骨の吸収を抑え、骨の強度を回復し、骨折の可能性を低下させることができます。痛みが強い場合は、鎮痛薬の投与やカルシトニン製剤を注射します。乳製品や緑黄色野菜を食べることで、カルシウムを摂取するよう栄養指導を行い、運動や日光浴の指導により骨の強さを増し、転倒の予防を図っています。


運動器不安定症

【概念】高齢にともない転倒などによる骨折などが増えています。内臓が元気で平均寿命が延びても、足腰の筋力が弱くなり、バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態を運動器不安定症といいます。

【診断】運動器不安定症の診断は、運動機能の低下を来たす疾患(11疾患:以下に示す)の既往があるか、または罹患している者で、日常生活自立度あるいは運動機能が以下に示す機能評価基準1または2に該当する者とされています。

<運動機能低下を示す疾患>

  • 脊椎圧迫骨折および各種脊柱変形(亀背、高度腰椎後彎、側彎など)
  • 下肢骨折(大腿骨頚部骨折など)
  • 骨粗鬆症
  • 変形性関節症(股関節、膝関節など)
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 脊髄障害(頚部脊髄症、脊髄損傷など)
  • 神経・筋疾患
  • 関節リウマチおよび各種関節炎
  • 下肢切断
  • 長期臥床後の運動器廃用
  • 高頻度転倒者

<機能評価基準

1.日常生活自立度(寝たきり度):ランクJまたはA(要支援+要介護1,2)

  ランクJ:何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する。
    ランクA:屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない(介護保険・障害高齢者の日常生活自立度の判定基準)。

2.運動機能:1)または2)

1)開眼片脚規律時間15秒未満

2)3m timed up and go test 11秒以上

【予防および治療】運動器不安定症の治療は、バランス能力および移動歩行能力を高める運動療法になります。体幹および下肢の筋力が低下すると、前傾姿勢で歩幅が狭くなり転倒リスクが高くなるため、特に体幹・下肢筋力強化が重要になります。例えば下肢廃用障害の主な要因である変形性膝関節症には、大腿四頭筋訓練(臥位での脚挙げ運動あるいは座位での膝伸展運動)が有効な運動療法になります。また、自治体による運動器不安定症に対する積極的な取り組みとして、転倒予防教室なども開催されています。

最近では、運動器の障害によって要介護状態や要介護になるリスクの高い状態、つまり運動器不安定症およびその予備軍を総称して、"ロコモティブシンドローム(運動器症候群)"という新しい概念も提唱されています(メタボに対してロコモと憶えましょう)。

具体的な事例としては、①階段を上がるのに手すりが必要である②支えなしに椅子から立ち上がれない③15分くらい続けて歩けない④転倒への不安が大きい⑤この1年間で転んだことがある⑥片足立ちで靴下がはけない⑦横断歩道を青信号で渡りきれない⑧家の中でつまづいたり滑ったりする、などです。心当たりのある方はすでにロコモかもしれません。そして放っておくといずれは運動器不安定症になる可能性が極めて高いです。寝たきりの80歳・90歳にならないように普段からの運動習慣を身に着けることが大切です。


③痛風(高尿酸血症)

【症状】特別な誘因がなく、急に手足の関節(主に足の親ゆびのつけ根の関節)が赤く腫れて痛くなります。風が当たっても痛いということで、「痛風」と呼ばれています。足の親ゆびのつけ根以外に、足関節、足の甲、アキレス腱のつけ根、膝関節、手関節にも激しい痛みが起こることがあります。耳の後(耳介)に痛風結節や尿路結石が出来ることもあります。生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病や肥満など)を合併することも少なくありません。痛風発作を何度か経験している人は、発作の前兆(違和感)を感じることがあります。

【病態】高尿酸血症が原因で、血液中の尿酸値が上昇しつづけ飽和溶解度を超えると、関節内に尿酸塩結晶が生じます。この結晶を白血球が処理する際、急性関節炎が発症し、関節が赤く腫れあがり激痛を伴います(痛風発作)。高尿酸血症状態が続くと尿酸結石が腎臓に生じ、腎機能が悪化して腎不全となります。高尿酸血症の原因は様々です。腎臓から尿酸を排出する機能が低下や、暴飲、暴食、肥満、激しい運動などが原因になると考えられています。降圧利尿剤、抗腫瘍薬などの薬物も原因になることがあります。

【当院での治療】痛風発作の疑いが強い時は、まず消炎鎮痛薬で症状の緩和を図ります。症状が緩和されれば、血液検査や尿検査を行い確定診断を行います。骨に異常がないか調べるためにはレントゲン撮影を行います。尿酸は絶えず身体の中で作られています。菜食を主とした食生活に切り替え、尿酸が体内で出来ないようにするか、内服薬で血中尿酸値をコントロールしなければなりません。そのためには、定期的な血液検査を行い、尿酸値と腎機能等を評価することが必要です。発作時の治療には、消炎鎮痛薬を用います。局所麻酔剤入ステロイド関節内注入も効果的です。前兆症状や発作の鎮静化にはコルヒチンも有効です。痛風発作が治まってから、尿酸値をコントロールする薬を長期間服用します。痛風の発作が起こらないからといって、薬を勝手にやめてはいけません。尿酸値を適切にコントロールしないと、痛風の再発作や腎機能障害等を起こすことが非常に多いです。


④関節リウマチ

関節や関節の周囲の骨、腱、筋肉などに痛みが起きる病気をまとめてリウマチ性疾患や単にリウマチと呼びます。一般的にリウマチといえば「関節リウマチ」のことを指しています。「関節リウマチ」はリウマチの中でも患者数が多く、100万人前後いるともいわれています。

どんな病気ですか?

関節リウマチの主な症状は手足をはじめ、全身の関節が腫れて痛み、特に手指がこわばったり(朝のこわばり)、進行すると関節が変形したりする病気です。また関節以外に皮膚、肺などの全身症状を伴う場合もあります。症状や進行の程度は人によってさまざまです。 関節リウマチの初期にあらわれる典型的な症状次のようなものがあります。

  • 朝のこわばり

  • 手足がチクチクと痛んだり、しびれたりする

  • 左右対称性に複数の関節が腫れて痛む

  • 食欲不振、微熱、全身の疲労感

どんな人に発病しやすいですか?

  • 関節リウマチの患者さんは現在100万人前後いると言われています。そして毎年約1万5000人が発病すると考えられています。そのうち8割が女性の患者さんで、圧倒的に女性に多くみられる病気ですが、なぜ女性に多いのか、はっきりしたことはまだわかっていません。

     どの年代にも発病しますが、30~40歳代からの発病が多と言われています。また、関節リウマチの患者さんの血縁者には関節リウマチの人が多いとの統計もあります。

原因はなんですか?

関節リウマチは、ある遺伝的要素をもつ人(関節リウマチになりやすい体質の人)が何らかの原因で免疫異常を引き起こして発病するのではないかと考えられています。細菌やウイルスなどから自分の身体を守る「免疫システム」において、自分の身体の一部が自分を攻撃してしまう状態、すなわち"自己免疫"が関係しているようですが、詳しいことはまだ解明されていません。

過労やストレス、出産などがきっかけになって発病することも少なくないようです。女性に多いことから女性ホルモンが関与しているともいわれています。いずれにせよ、関節リウマチになる原因はひとつだけではなく、複数の要因が複雑に重なり合って発病に至ります。

どんな経過を辿るのですか?

経過としては、侵される関節の数が少なく単周期でよくなるタイプ(単周期型)、多周期で良くなったり悪くなったりしながら軽快に向かうタイプ(多周期寛解型)や徐々に悪化するタイプ(多周期増悪型)があります。また、数は多くはないですが、治療してもどんどん悪化するタイプ(進行型)があります。

関節リウマチの一番の特徴は関節炎ですが、これは関節の滑膜という部分に起きる炎症です。滑膜の炎症が慢性化すると同時に滑膜が増殖し、まわりの軟骨や骨を少しずつ破壊していきます。通常、早ければ発症から2年ほどで約60%の患者さんにこのような関節破壊の進行がみられます。さらに破壊が進むと、関節の変形が起こり、次第に関節が動かしにくくなり、日常生活にも支障があらわれます。
 最近では滑膜内に炎症性サイトカインという物質が多く見つかり、これが炎症を引き起こし、骨・軟骨を破壊する本体と考えられています。逆にこれらのサイトカインを抑えることにより、骨・軟骨の破壊を止めることができるということになります。

どんな治療をするのですか?

当院では、診断のためにまず詳しい問診や診察、それにレントゲン検査と血液検査をします。
血液検査では、リウマトイド因子(RF)・炎症反応(CRP)や、最近では、骨軟骨の破壊の程度を知る血清メタロプロテアーゼ(MMP-3)などで病気の勢いも診断します。
薬物療法では、まず非ステロイド系抗炎症薬を投与して関節の腫脹・疼痛の軽減を図ります。
抗リウマチ薬は、免疫を調整する薬剤や免疫を抑制する薬剤を使用します。
活動性の高い時期には、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン薬)を投与します。
最近では、生物製剤(たとえばインフリキシマブ)を投与して、炎症性サイトカインを抑制し、骨・軟骨の破壊が進行しないようにしています。
 物理療法では、マイクロ波や赤外線治療、マッサージなどにより局所・全身の循環を改善し、炎症や痛みを和らげるようにします。
また体操の指導により関節の拘縮を防ぎ、こわばりが起きないようにします。日常生活の注意では、十分な睡眠をとり、疲れが溜まらないようにします。関節に余分な負担がかからないように、日常生活上の工夫を指導します。関節の変形や破壊が強くなり、手術療法が必要になれば、適切な病院を紹介させていただきます。